【SERIES|三重企業探訪】株式会社ミエライス(後編)
三重の食卓を、これからも支え続けるために —前川社長が考える、社員、地域、そして未来基準—
家で炊くご飯、外食先で食べるご飯、忙しい日に頼れるパックご飯。暮らし方が変わる中で、ご飯の食べ方や届け方も少しずつ広がっています。
それでも変わらないのは、三重の食卓を支え続けたいという思いです。米を届ける会社として何を守り、何を変えていくのか。
後編では、前川社長が大切にする「決断する力」、社員が長く働ける会社づくり、そして三重の米をこれからの暮らしへつないでいくためのミエライスの挑戦についてお届けします。
トップに必要なのは、決断する力
前川社長が、経営者として大切にしていることを尋ねると、その答えはとても明快だった。
「決断する力」
会社のトップは、最後に決めなければならない。もちろん迷うことはある。不安がないわけでもない。
けれど、社員の前で優柔不断な姿勢を見せることはできない。判断を先送りにすれば、現場も迷う。進むべき方向が見えなければ、社員も動きづらくなる。
だからこそ、トップには決める覚悟がいる。最終的な責任を負う立場として、必要な場面で腹をくくり、判断すること。その姿勢こそが、経営者に求められるものだと前川社長は考えている。
ただし、決断は勢いだけでするものではない。正しく判断するためには、土台となる知識や経験が必要になる。
現場のこと、業界のこと、社員のこと、そしてこれから会社が向かう先。そうしたベースを持っていなければ、本当の意味で責任ある決断はできない。
コロナ禍で動いた、大きな挑戦
その象徴ともいえるのが、近鉄名古屋線・津駅近くに建つ、マンション兼貸店舗「グランプレジール」である。
もともと本社があった約400坪の土地は、その後コインパーキングとして活用されていた。けれど前川社長の中には、「それだけでは面白くない」という思いがあった。
会社が持つ資産を、もっと未来につながる形で生かせないか。そう考え、10階建ての建物を建てるという大きな決断に踏み切った。
しかも、それはコロナ禍の時期だった。人の動きが止まり、先の見通しも立てづらい中での投資。社内でも、前向きな声と不安の声は半々だったという。
それでも前川社長は、役員や監査役を口説きながら計画を進めた。
「コロナ禍の時にやるんや!」
普通なら、不透明な時期だからこそ立ち止まる。もう少し様子を見ようと考える。けれど前川社長は、そこに別の見方をした。
職人が確保しやすく、資材も比較的そろえやすい。今なら1年で建てられるかもしれない。先が読めない時期である一方で、動ける条件がそろっている時期でもある。
前川社長は、リスクだけでなく、その時期だからこそ見える可能性にも目を向けたのである。
建物は1年で完成。1階から3階は賃貸店舗、4階から10階は居住空間として設計された。内装や設備にも前川社長自身が深く関わり、トイレまで自ら選んだという。こだわれば予算は上がる。それでも、譲れない部分があった。
中でも一番こだわったのが、エントランスである。
エントランスは、直接お金を生む場所ではない。そのため、そこまで予算をかける必要があるのかという反対もあった。
けれど、建物の印象を決める大切な入口であり、そこに入った瞬間に「こういうところに住んでみたい」と思ってもらえるかどうかを左右する場所でもある。
前川社長は実際にさまざまな建物を見に行き、その空気感まで確かめながらつくり込んでいった。
コロナ禍で、本当に人が動くのかという不安はあったが、建設中から予約も入り、結果的に入居・利用も進んでいった。
今振り返れば、あの時期に動いたからこそ、職人も資材も確保でき、1年で完成まで進めることができた。
本業とは違う挑戦に見えるかもしれない。けれど「グランプレジール」は、ミエライスが持つ土地と歴史を、未来へつなぐための経営判断だった。
迷いながらも決める。反対を受けても、譲れないところは譲らない。その姿勢こそ、前川社長が語る「決断する力」を象徴している。
津駅のホームから、あるいは国道23号を通る車窓から、その建物を目にしたことがある人もいるかもしれない。
ミエライスのコーポレートカラーであるオレンジが、街の風景の中でふと目に入る。
そこには、この場所にミエライスの存在を残していくという前川社長の思いが込められている。
長く働いてほしいという、社員への思い
社員に対する思いを尋ねると、前川社長は「長く働いてほしい」と話した。
縁あってミエライスに来てくれた人には、できるだけ長く、安心して働き続けてほしい。
そのためには、仕事だけを頑張ればいいわけではない。自分の暮らしがあり、家族との時間があり、休む時間があってこそ、また前向きに仕事へ向かうことができる。
社員の生活が整っていなければ、会社も長く続いていかない。だからこそ前川社長は、働き方や福利厚生を整えることにも力を入れている。
前川社長が社長に就任した当時、年間休日は108日だったという。そこから115日へと増やし、今後は120日まで近づけていきたいと考えている。
残業を減らすこと、福利厚生を整えることにも取り組んでおり、ジムの利用補助もその一つ。本人だけでなく、パートナーも対象にしているという。
言葉にすれば当たり前のように聞こえるが、物流を抱える企業にとって、それを実現するのは簡単ではない。取引先は365日動いている。
日曜日だからスーパーの売り場に米が並ばない、というわけにはいかない。祝日だから飲食店に米が届かない、というわけにもいかない。
誰かが休めば、別の誰かがその仕事を支える必要がある。休みを増やすには、単にカレンダー上の休日を増やすだけではなく、人員体制や業務の組み方まで考えなければならない。
それでも前川社長は、休めない会社ではいけないと考えている。しっかり休み、また仕事に向かえる環境をつくること。それが、社員に長く働いてもらうために必要なことだ。
昔はこうだった。自分たちの頃はこうしてきた。そんな言葉だけでは、今の時代には通用しない。若い世代が休みや福利厚生を重視するのは、特別なことではなく、自然な感覚になっている。
だからこそ、会社もその変化を受け止めながら、働く環境を整えていく必要がある。
挑戦を恐れず、自ら動く社員がいる会社へ
前川社長が社員に求めているのは、自分で考え、前向きに動く姿勢である。
日々の仕事の中で問題を見つけ、自分なりに受け止める。そして、「こうした方がいいのではないか」と改善のために動く。
仕事に対してポジティブに向き合い、能動的に関わろうとする人がいてくれることが、会社にとって何よりありがたいという。
何もしない方が、楽かもしれない。外から見ているだけなら、失敗することもないし、余計な責任を背負うこともない。
けれど、それでは何も変わらない。仕事の中に面白さも、成長のきっかけも生まれにくい。
だからこそ前川社長は、挑戦する姿勢を大切にしている。たとえ失敗したとしても、何かを変えようと動いた結果であれば、決してマイナスにはしない。
むしろ、その一歩に意味がある。そういう空気がなければ、社員のモチベーションも育たない。
前川社長自身が、これまで決断し、動き、挑戦してきた人である。だからこそ、その言葉には説得力がある。
ただ与えられた仕事をこなすだけではなく、自分の仕事として考え、前向きに関わっていく。
そんなチャレンジ精神を持つ社員が増えることが、これからのミエライスを支えていく。
卸売業から、食のメーカーへ
ミエライスの未来を考える上で、前川社長は「ただの卸売業ではいけない」と話す。
玄米を精米し、袋詰めして卸す。それはもちろん、ミエライスの大切な仕事である。けれど、それだけではこれからの時代に未来を描きにくい。
「ただ米を精米して、袋に詰めて、卸すだけでは未来がない」
前川社長の言葉には、米を扱う会社としての危機感と、これからの可能性の両方がある。
必要なのは、食べることのプロフェッショナルとしての意識。卸売業でありながら、メーカーとして商品をつくり、暮らしに提案していく姿勢である。
その一つが、パックご飯だ。
かつてパックご飯は、今ほど日常的なものではなかった。非常用や、忙しい時の代用品という印象を持っていた人も多いかもしれない。
けれど、技術は大きく進み、味も保存性も変わった。今では常温で長期保存でき、非常食にもなり、忙しい日の食事にもなる。
包丁もまな板もいらない。レンジで温めれば、すぐにご飯が食べられる。その手軽さは、現代の暮らしに合っている。炊飯器で米を炊くことだけが、ご飯の形ではない。食べ方の選択肢が増えることも、これからの食の当たり前なのだと思う。
ミエライスでは、三重県産コシヒカリのパックご飯も手がけている。中でも特徴的なのは、あえて160gという量にしていることだ。大容量ではなく、軽めの茶碗一杯分。
そこには、「一回で食べきってほしい」という思いがある。米をつくる人の苦労を知り、生産者との距離が近い会社だからこそ、残さずおいしく食べてほしい。その思いが、160gという量に表れている。
前川社長は、三重県産コシヒカリのパックご飯について、こう話す。
「三重県産のコシヒカリのパックご飯は、うちだけやと思います」
その言葉には、地元の米を扱ってきた会社としての誇りがある。パックご飯という形にすることで、三重県産米はより手軽に、暮らしの中へ入っていく。
地元の米を地元の人が食べることは、消費者にとって便利なだけではない。
三重の米を選ぶ人が増えることは、地域の農業を支えることにもつながっていく。
ミエライスがパックご飯に取り組むことは、単に便利な商品を増やすことではない。
前川社長は、三重の人口減少や若い世代の流出、そして米づくりの担い手不足にも強い危機感を持っている。米をつくる人がいなければ、米を届ける仕事も続いていかない。
田んぼがあり、水があり、土があっても、それを守る人がいなければ、三重の食は未来へつながっていかない。
だからこそ、まずは地元の米を手に取りやすい形で届けること。
三重の米を食べる人を増やし、その価値を暮らしの中で感じてもらうこと。それもまた、地域の農業を支える小さな一歩になる。
パックご飯という身近な商品にも、三重の米をこれからの暮らしにつないでいきたいという、前川社長の思いが込められている。
ミエライスが考える未来基準
未来基準とは、今はまだ特別に見えるものが、やがて暮らしの当たり前になっていくことなのかもしれない。
パックご飯も、働き方改革も、DXやAIも、かつては一部の新しい取り組みだった。けれど時代が変われば、それは日常になる。便利になること、効率が上がることは、これからの企業にとって避けて通れないテーマである。
前川社長も、新しい技術や仕組みの必要性を感じている。時代に合わせて変わるべきところは変えていかなければならない。けれどその一方で、人と人との関係が希薄になっていくことには、寂しさもあると話す。
三重の米を、三重の食卓へ届ける。
社員が長く働ける環境を整える。
地域の農業や食文化を、次の世代へつないでいく。
ミエライスが考える未来基準は、毎日の食卓を支えながら、時代に合わせて変わるべきところを変え、守るべきものを守っていくこと。その一つひとつの積み重ねが、これからの三重の暮らしをつくっていく。
暮らし方も、働き方も、食べ方も、これから先さらに変わっていく。
それでも、人がご飯を食べる時間はなくならない。
ミエライスの挑戦は、米を通して、三重の暮らしの未来を支えることにつながっている。
■ 取材先紹介
株式会社ミエライスは、三重県津市を拠点に、お米の精米・加工・販売を手がけるお米の専門企業です。
安心・安全で高品質なお米を届けることにこだわり、三重県産米をはじめ全国各地の良質なお米を取り扱われています。
日本の食文化を支える企業として、長年にわたり地域の暮らしに寄り添い続けています。
株式会社ミエライス