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くらしの未来を創る

【SERIES|三重企業探訪】株式会社おにぎりの桃太郎(後編)

一つのおにぎりに込める想い――上田社長が語る、桃太郎のおいしさの追求

地域に愛され続けるという事は、未来基準で人と向き合い続けるという事。それは住まいづくりにも、人々の暮らしに寄り添い続ける仕事にも確かにある軸です。

前後編でお届けしている「おにぎりの桃太郎」。

代表である上田社長に直接お話しいただく後編では、おいしさへのこだわりや素材への探究心、そして桃太郎が描く未来についてお伺いしました。

おにぎりは、誰にとっても身近な食べものだ。

 

家で握ってもらった記憶、部活のあとに食べた記憶、仕事の合間に急いで食べた記憶、遠足や運動会で食べた記憶。思い出す場面は人それぞれでも、日本人の暮らしの中には、いつもどこかにおにぎりがある。

 

 

「日本人と米、日本人とおにぎりって、切っても切れないじゃないですか。DNAレベルで入っているものだと思うんです」

 

 

そう話すのは、おにぎりの桃太郎・上田耕平社長。誰もが知っている食べものだからこそ、おにぎりはごまかしがきかない。

 

特別な驚きよりも、いつもの味として手に取りたくなること。持ち運んでもおいしいこと。そして、冷めてもちゃんとおいしいこと。

 

桃太郎のおにぎりが大切にしているのは、そんな当たり前のようで難しい一口である。

 

 

桃太郎のおにぎりは、袋に入ったピロー包装で販売されている。そこには、買った瞬間だけでなく、お客様が食べるまでの時間を考える桃太郎らしい理由がある。

 

 

おにぎりを買ってすぐ食べる人もいれば、車の中で食べる人、バスの中で食べる人、仕事の休憩まで置いておく人もいる。どれくらいの時間を持ち歩くのかは、お客様によって違う。

 

 

「買ってから、お客様がどれだけの時間持ち歩くかわからない。作った状態と食べる時のクオリティが全然違うのでは困るんです」

 

 

だからこそ、鮮度を保ち、持ち運びやすくし、時間が経ってもおいしく食べられる状態を守る。

 

桃太郎のおにぎりは、店頭に並んだ瞬間だけを見てつくられているのではなく、お客様が実際に口にするその時までを想像してつくられている。

 

 

おにぎりのおいしさを決める中心には、やはり米がある。

 

桃太郎の工場は365日動き、炊飯担当者は毎日米と向き合っている。それでも「今日は最高に炊けました」と言える日は、年に数回ほどだという。

 

 

「お米を炊くのって、めっちゃ難しいんですよ」

 

 

家庭では、米を研いで水を入れ、炊飯器のボタンを押せばご飯が炊ける。けれど、毎日同じように、商品として安定したおいしさに仕上げることは簡単ではない。

 

火力、水分量、気温・・・その日の条件によって、炊き上がりは少しずつ変わる。

 

 

だから桃太郎では、炊き上がりのわずかな違いにも気を配る。おにぎりづくりは単なる作業ではなく、日々の小さな変化を見逃さない繊細な仕事でもある。

 

 

炊き上がったご飯には、すぐに焼き塩を振る。塩で米をコーティングし、そこから一気に冷ます。この「冷ます工程」が、冷めてもおいしいおにぎりには欠かせない。

 

 

炊きたてのご飯から立ちのぼる湯気は、見るからにおいしそうだ。けれど上田社長は、その湯気を少し違う目で見ている。

 

 

「ほかほか出てるじゃないですか。あれ、全部うま味が逃げていってるんですよ」

 

 

湯気として出ていくものは、うま味でもある。だから、できるだけ早い段階で閉じ込め、余分に逃がさない。

 

炊き上がってからの時間と温度の扱いにまで気を配ることで、冷めてもおいしい一口が生まれている。

 

 

米と同じように、海苔にも桃太郎のこだわりがある。

 

毎シーズン海苔を選び直し、見た目にはほとんど同じに見える海苔を何枚も並べ、透かし、香りをかぎ、実際に食べて確かめる。

 

 

おもしろいのは、一番高級な海苔が、必ずしも桃太郎のおにぎりに合うわけではないということだ。

 

一番摘みの海苔はやわらかく香りも強いが、おにぎりにすると主張が強すぎることがある。価格とのバランスも含めて、桃太郎のおにぎりに合うものを見極めていく。

 

 

上品すぎても、強すぎてもいけない。米や具材と一緒になった時に、ちょうどよくおいしいこと。その目線が、桃太郎の商品づくりの芯にある。

 

 

桃太郎のおにぎりには、尾鷲の海洋深層水を使った塩が使われている。塩もまた、こだわり出すときりがない世界だという。

 

海水塩、岩塩、うま味、粒の大きさ、米との相性。考え始めれば、どこまでも深く入っていける。

 

 

「塩ってこだわり出したら、沼なんですよ」

 

 

そう笑う上田社長の口ぶりには、仕事としての責任感だけではない、好きだからこそ深く知りたくなる純粋な探究心がにじむ。

 

今は海洋深層水の塩を使いながら、岩塩にもおもしろさを感じているという。

 

 

とはいえ、桃太郎のおにぎりに必要なのは、米、具材、海苔、塩がそれぞれに引き立て合い、食べた時に自然とまとまること。その感覚を大切にしながら、桃太郎らしいおいしさを探り続けている。

 

 

新しい具材を考えることは、いくらでもできる。

 

米に合いそうな具材は世の中にたくさんあり、話題性のある商品もつくれる。けれど上田社長は、目新しさだけを求めているわけではない。

 

 

「みんな一人ひとりに、“おにぎりの具材はこれや”っていう思いがあるんですよね」

 

 

鮭をはじめとした定番のおにぎり。人にはそれぞれ、好きなおにぎりの記憶がある。慣れ親しんだ味がある。

 

だからこそ、新しい具材が一時的に話題になっても、長く愛される定番になるとは限らない。

 

 

上田社長が大切にしているのは、今ある定番を少しずつ磨いていくことだ。

 

鮭のおにぎりなら、鮭のおにぎりをもっとおいしくする。昆布なら昆布を、梅なら梅を。大きく変えて驚かせるのではなく、食べた人が自然に「やっぱりおいしい」と感じる味へ、日々整えていく。

 

 

その見直しは、特別なリニューアルの時だけに行われるものではない。桃太郎では、基本的に毎朝おにぎりを試食しているという。

 

 

その中で、たとえば海苔の香りが少し弱くなってきたと感じれば、すぐに海苔屋へ連絡し、サンプルを見せてもらう。

 

 

海苔は毎シーズン選び直す。20枚ほど並べても、見た目はほとんど同じ。けれど、それを透かして見て、実際に食べ、香りを確かめながら、桃太郎のおにぎりに合うものを選んでいく。

 

 

何気なく手に取る私たちにとっては、少し意外かもしれない。いつも同じように並んでいる定番のおにぎりも、実はその裏側で、日々状態を確かめながら見直されている。

 

決まった味をただ守るのではなく、変わらないおいしさのために、見えないところで手を入れ続けているのだ。

 

 

気づかれないほど自然に、でも確かにおいしく。その小さな積み重ねに、桃太郎の商品づくりへの真摯な姿勢が表れている。

 

上田社長は、商品を磨き続ける理由についてこう話す。

 

「桃太郎のおにぎり、おいしいよねって言ってもらえるのって、めっちゃ嬉しいじゃないですか。」

 

 

お客様から届く「おいしい」の声は、社長だけのものではない。

 

商品開発に関わった人、製造に関わった人、販売する人、配達する人。会社の中のいろいろな人に共有されていく。

 

 

「あなたが作った商品、すごく売れたね」と伝えられることは、働く人にとって大きな喜びになる。お客様の喜びが、スタッフの誇りにつながる。その循環を、上田社長は大切にしている。

 

お客様の「おいしい」は、働く人にとって何よりの励みになる。その声が、桃太郎のおにぎりを磨き続ける力になっている。

 

 

上田社長は、三重が好きだと言う。

 

「三重県が大好きなんです。本当にいいところだなと心から思っています」

 

三重には、まだ広く知られていないおいしい食材がたくさんある。けれど、知らない食材をいきなり手に取るには、少しハードルがある。その点、おにぎりは誰にとっても身近だ。

 

見慣れない食材でも、おにぎりの具材としてなら自然に手が伸びる。食べておいしければ、その食材のことや、その土地の味のことをもっと知りたくなる。

 

 

「おにぎり屋のプラットフォームとして、どういうふうに三重のおいしさを伝えていけるかなと思っています」

 

桃太郎というおにぎり屋を通して、三重のおいしさを届ける。それは、おにぎり屋だからこそできる地域との関わり方である。

 

 

上田社長には、叶えたい夢がある。

 

「各エアラインに、うちの商品を載せたいんです」

 

それは、機内食として一時的に採用されることではない。

 

飛行機の座席前ポケットに入っているメニューの中に、桃太郎の冷凍おにぎりが並び、欲しい人が注文すると、温められたおにぎりが出てくる。そんな仕組みをつくりたいという。

 

 

旅の途中、空の上で、四日市のおにぎりを食べる。その風景を想像すると、少しわくわくする。

 

「こうやって言うと、関係者の目に留まることがあるんです」

 

 

夢は、口に出すことで誰かに届く。記事を読んだ誰かが「うちで何かできるかもしれない」と声をかけてくれるかもしれない。そうした縁が重なって、未来は少しずつ形になっていく。

 

 

一つのおにぎりは、小さい。
けれど、その中には、米を炊く技術、海苔を選ぶ目、塩の加減、冷めてもおいしく食べてもらうための工夫、そして三重のおいしさを届けたいという思いが詰まっている。

 

 

桃太郎のおにぎりは、今日も四日市の日常の中にある。

 

朝の始まりに、仕事の合間に、

子どもの行事に、家族の食卓に。

そしていつか、空の上にも。

 

 

冷めてもおいしい理由。
それは、技術だけではない。お客様が食べるその瞬間まで想像し続ける、桃太郎のまっすぐな情熱にある。

■ 取材先紹介

株式会社おにぎりの桃太郎は、三重県四日市市を拠点に、おにぎりやお弁当、お寿司などの製造・販売を展開されています。

創業以来、真心を込めた商品づくりを大切にされており、地域に根ざした企業として長年にわたり多くのお客様から支持を集められています。

株式会社おにぎりの桃太郎

https://onigiri-momotaro.jp/

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